新宮簡易裁判所 昭和42年(ろ)15号 判決
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【判決理由】2 徐行義務違反の有無について
(一) 次に検察官は、本件事故発生について、被告人に徐行を怠つた過失があると指摘する。ところで本件の場合被告人に徐行すべき義務を要求するためには、まず、被告人のように駐車中のマイクロバスの側方を通過する車両の運転者には一般的に駐車中のマイクロバスの後方から歩行者が飛び出してくることを予見して車両を運転すべき義務があるかどうか、ならびに本件の具体的な状況下において被告人に右のことを予見しうる特段の事情があつたかどうかが検討されなければならない。
(二) 本件事故現場のように、歩車道の区分がなく歩行者も車両もともに同一の道路を利用する場所においては、歩行者といえども、高速度交通機関たる車両の社会的有用性を考慮し、とくに車両との接触による事故の発生については十分の注意を払う必要のあることはいうをまたないところであり、わずかの注意により車両との接触、衝突を避けるうるような場合には右のような注意をつくすべき義務があるものと解すべきである。そして通常の場合においては、車両の運転者は、歩行者が右のようなささいな注意は払つたうえで行動するものと期待し、信頼して車両を運転することが許されるものと解される(さもなければ、高速度交通機関たる車両の機能は著しく減殺され、その社会的効用も著しく喪失されるにいたるからである。)。
(三) さて本件の場合においては、駐車中のマイクロバスの後方から路上に出て道路を横断しようとする歩行者は、バスの後方において一たん停止し、道路の左右を見わたすだけの、ごくささいな注意を払えば、たやすく路上の車両の接近を認識することができ、右車両との衝突をさけうるのであるから、上記の見地から、右の歩行者にはそのようなわずかの注意を払うべき義務があるものと解される。従つて路上の側端にそつて運転者のみが乗車しているバスが駐車していたというだけの状況のもとにおいては、バスの側方を通過する自動車の運転者は、バスのかげから歩行者が無謀にも道路を横断するためにとび出してくるようなことはないものと信頼して車両を走行することが許されるもの――すなわち、右のような無思慮、無謀な行動に出る歩行者との接触をさけるために、減速徐行すべき義務は一般的にはないものと解される。
(四) 次に本件の具体的な状況を検討してみると、前記の各証拠によれば「当時被害者より前にバスのかげから道路を横断した歩行者はなく、またバスには運転者が乗車しているのみで乗客は全くなく、さらに被告人の進路から認識しうるバスの周辺には佇立している歩行者は全くなかつたこと」が認められるのであるから、バスの側方を通過する被告人にとつて、バスのかげから歩者が自車の直前に急に走り出してくることを予見できるような特段の事情もなかつたものといわなければならない。